随分前に海外に駐在した。
小さな拠点なので、技術も営業も総務も、何でも屋さんだったころ。お客様と話をすることは楽しかったし、特段コミュニケーションも嫌いでも苦手でもなかった。でも、お客さんの名前を覚えられないことには、苦労したけれど。
で、ITをやっていて、お金をいただかない支援はとても楽しい。お客様がすごく感謝してくれるし、こちらも料金としていただかなくていいのは、お客様と対等に話がしやすい。
でも、事業は事業。ボランティアじゃないのでお金をいただかないといけないし、お客様も、何回も話をするうちに、だんだんこちらの熱意は感じてくれる。そんなうち、「通ってくれているから少しくらいは買ってあげないといけないかな」とか考えていただける。ありがたい限り。
ある日、お客様がこう切り出した。
「提案するものを買いたいなと思うのだけれど、決裁が日本で無いと下りない。私の代わりに稟議決裁を書いてくれないだろうか?」
実は、この瞬間が営業冥利に尽きる。
お客様が腹を割って信じてくれて、(まあ、提案書も書いているから、決裁には困らないでしょ、とも思うけど)お客様の拠点も小さな所帯。社長が何役もこなしている。忙しくて、考えるのも大変なのだろう。
「喜んで。稟議システムはこれでいいですね。」
お客様の稟議システムにログインさせていただき、購入するものと費用と期間を書く。あとは、必要な理由と、投資対効果が大事だ。定性的な効果より、できるだけ定量的な効果。金額とか、回数とか、ログとかでエビデンスが取れる指標が望ましい。
(私)「お客様のシステム、xxx事業の情報を管理しているから、拡大するには、こんな作業が要りますよね。この製品が入ることで、この作業の割合がこれくらいになるということで、いいですよね。」
(お客様)「なるほどねぇ。でもウチの会社ではこの言葉は使わないなぁ。こっちの言葉かな」
(私)「了解です。では、こう書き換えて、こんな感じでどうでしょうか?」
(お客様)「いいねぇ。そんな感じかな。ありがとね。決裁が下りるかどうかはわからないけど、わかったらまた連絡するね」
数日後、お客様から決裁が下りたので、早速注文したいとの連絡。すぐに提案通りのものを実現して、その製品を利用できるように設置する。期待以上だとの感謝の言葉も。
(お客様)「ありがとう。これで上期の取り組みの報告書も、強気にかけそうだよ」
感謝されながら、売上も上げさせていただく。これこそ基本の形だ。