(前記事からの続き)
前述の事案一覧に関して、侵入経路で分類してみた。
2026年9-10月に報道された主なサイバー事案の記事
| 侵入経路 | 件数 |
|---|---|
| 未公表・調査中 | 19 |
| Web・アプリ・APIの脆弱性・悪用 | 14 |
| 委託先・クラウド経由 | 5 |
| VPN・ネットワーク機器 | 4 |
| 認証情報の悪用 | 2 |
| 端末の侵害 | 1 |
| DDoS | 1 |
件数の多さは目を引くが、実は割合や種別はあまり変わっているものではない。
そこから、こんなことが言えるのではないか。
入口は昔から変わらない
46件の事案について未公表部分を除いた27件に着目しても、十分に傾向は見える。
最も多いのは、Webサイトやアプリ、APIの脆弱性・仕様の不備を突かれたもので、14件と半分強を占める。会員情報を取り出すAPIを不正に使われたソースネクスト、Webサイトの機能の仕様の不備を突かれたディップ、BIツールの既知の脆弱性を突かれたVOISINGなどである。次いで、VPN機器経由と委託先経由が合わせて9件、約3分の1になる。ある組織ではは既知の脆弱性が残ったVPN機器から入られ、別の組織では委託先から盗まれた正規アカウントを悪用された。
どれも新しい手口ではない。VPN機器の脆弱性も、委託先の管理の甘さも、Webアプリの穴も、10年以上前から言われ続けてきたものばかりだ。「AIによる新しい攻撃」と呼べるような侵入口は、一つも見当たらなかった。
変わったのは「速さ」と「量」
では、なぜ今、これほど事案が続くのか。入口は変わっていないが、攻撃の速さと量は明らかに変わっている。
共同通信によると、不正アクセス等の被害は9月末時点で600件に達し、過去最多のペースだという。9月下旬からのわずか2週間で、国内の14社・団体が被害を公表した。
ここでAIが無関係かといえば、そうではない。JPCERT/CCは、攻撃者がAIを使って脆弱性のスキャンやAPI経由の攻撃をしていたことを確認している。NICTと総務省も、公開されているアプリを解析してサーバーを狙う手口に注意を呼びかけた。
つまりAIは、新しい扉をこじ開けたのではない。昔からある鍵のかけ忘れを、速く、大量に見つけて回る道具になったのである。「AIがサイバー攻撃をしている」という解説は、半分だけ正しい。しかし、肝心の残り半分、なぜ鍵がかかっていなかったのかが抜け落ちている。
運用の現場から見えること
私は10年以上前、数百のシステムの運用監視を担当していた。その経験から言えば、今回並んだ侵入口は、どれも運用の現場で「分かってはいるが、なかなか手が回らない」ところばかりである。
パッチを当てるには、関係部署との調整とシステムの停止時間が要る。深刻度が「中」と評価されていれば、つい後回しにしたくなる。デジタル庁のVPN機器の脆弱性も、当初の評価は「Medium」だった。委託先の管理も同じで、自社の手の届かないところは、どうしても目が行き届かない。
以前なら、こうした小さな隙を攻撃者が見つけるまでに時間がかかり、その間に塞げることもあった。AIはその猶予を奪いつつある。隙が見つかるまでの時間が短くなった分、「後回し」がそのまま被害につながるようになった。
世紀末思想に流されず、足元を固める
ノストラダムスの大予言が外れたように、AIが攻撃の世界を一変させたわけではない。変わったのは攻撃の速さと量であり、入口は昔のままである。
だとすれば、打つべき手も昔から変わらない。外部に公開しているVPN機器やWebサイトのパッチを最優先で当てること。委託先を含めて、誰がどの権限を持っているかを把握すること。そして、正規のアカウントの「いつもと違う動き」を見張ること。
地味な話である。テレビで評論家が語る「AIの脅威」ほどの派手さはない。しかし、毎日のニュースに一喜一憂するより、自分の足元の鍵を一つずつ確かめる方が、よほど確かな備えになるはずだ。

